国債と将来世代への負担 | 今今と今という間に今ぞ無く 今という間に今ぞ過ぎ行く by道歌

国債と将来世代への負担

近年日本の国債依存度や国債残高が国際的に見ても

異常な状況であるといわれ、将来世代への負担の

転化などの懸念があちこちで叫ばれています

この国債と将来世代への負担の転嫁の関係を経済学的に

考えてみることにします

いきなりですが、負担とは何をさしているのでしょうか?

実はこの問題が非常に重要な論点となるのです

つまり、負担をどう定義するかによって将来世代へ負担が

転化するのか否かでまったく逆の結論が出てしまうのです

以下でこの問題に対する財政学上の主要な主張を示し、最後に

自分なりの視点でこの問題に関して考えてみることにします

(財政学を学んでる方ははじめの方は読み飛ばしてください)

まず、ケインジアンであり新正統派のラーナーの主張を見てみることにします

ラーナーは負担を国全体で利用可能な資源の減少としました

この定義に沿って考えれば、内国債(国内で国債が消費される)であれば

国富は減少せず将来世代に負担は転化しません

これに対して、外国債(海外投資家等が消費する)であれば利息分

海外に国富が流れて行きますので将来世代に負担が転化します

以上を簡単にいえば日本から国富が外に出て行かなければ国の中で

お金が回っているだけで負担無しで、利息分外に出てしまったら

国富が減少して負担が生じるというわけです

いわれてみれば確かにそうだと思えてきてしまいますねぇ


次にブキャナン(公共選択学派)の主張を見てみます

ブキャナンは負担を取引の強制性に求めました

この考え方では公債は任意での選択ができ負担ではないが

課税は強制的になされるため負担になるとなります

そのため、公債発行時の人々は任意性より負担を負わず

公債償還時に増税された将来世代は課税の強制性より

負担を負うとなります

次にモディリアーニの主張を見てみます

モディリアーニは負担を生産力の低下としました

ここで、ちょっと難しい議論ですが政府支出Gを公債発行で

まかなった場合、公債購入に貯蓄が使われるため

民間の貯蓄がGだけ減ることになります

これは資本貯蓄がGだけ減少することに相当します

このGを一律課税でまかなったとすると、民間の可処分所得は

Y→Y-Gとなります

ここで民間の限界消費性向をc (0
貯蓄の減少は(1-c)G (
貯蓄の減少が少なくなります

以上より公債発行は課税よりも資本貯蓄を減少させ、よって

生産力を減少させるので将来世代に負担を転化させることになります

ずいぶん長くなりましたがまだあと二人の主張を見てみます

ボーエン=デービス=コップの主張を見てみます

この三人は負担を生涯消費量の減少としました

この議論によれば、公債発行時はすべての人が消費を一定にすることが

できますが公債償還時には公債を持っていない人は可処分所得が減少

することになり、この人々の分将来世代に負担が転化します

最後にリカード=バローの主張を見てみます

リカード=バローは負担を総消費量の減少としました

彼らは、公債発行時には将来の増税を見越して人々は

その分貯蓄をし、消費を増やさないので公債と課税は経済的な

効果で同一となると主張します

また、世代をまたいで公債の償還が行われる場合でも

将来世代に遺産を残すことで負担の転化が起こらないとします

これをバローの等価定理といいます

以上教科書に載る理論を概観しましたが、いかがだったでしょうか?

納得できるようなできないような感覚を持った方も多いと思います

自分自身の考え方を述べますと、ボーエン=デービス=コップの

考え方に近いものだと思います

日本では国債がほとんど国内で消費されているためラーナーの

定義によれば問題はありません

また、ブキャナンの考え方はある意味精神論に近いですし、

モディリアーニの考え方はそもそもマクロ経済の定式化の部分で

妥当性があるのかないのか定かではないと考えられます

リカード=バローに至っては人間が完全に増税とその規模を

予見するといった無理やりな仮定を置いていますので怪しいです

私自身公債の問題点は持つものと持たざるものの格差の発生

だと思っています(あまりこういった主張は聞きませんが・・・・)

つまり、国債を購入する層はある程度の余裕のある人々で

国債を購入しない層は低所得層であると考えられるので

国債償還時期が来たときに増税によって低所得層も含めた

全体から償還の原資を集めてそれを国債保持者の富裕層に

利息を付けて償還するという所得の逆移転が起こってしまうのです

低所得者から高所得者への所得移転が起こってしまうのでは

格差を広げることになり、国を不安定にする結果になります

また、公債は将来世代への負担転化だけでなく財政の硬直化

を招くことになりますので、やはりたまってもいいものではありません

今の日本の現状は国債依存度や残高が非常に高い上に

国債を大量保有している金融機関などが倒産した場合

国債が投げ売られ、暴落し、金利が高騰するなどのリスクもあります

今後の国債管理政策としてはラーナーの主張とは逆を

行くことになりますが外国人投資家なども含めた多くの主体に

広く薄く国債を保有してもらう努力が必要になります

そして、所得の逆移転が起こらないように低所得層にも購入しやすい

小口の国債も発行していく必要があると考えられます

発行を減らす努力と共に、負担転化やリスクなども考え以下に

安全に国債管理ができるかということも考えていく必要があるでしょう